「太陽光は何年で回収できますか」という問いに、「◯年です」と一つの数字で答える試算や広告はたくさんあります。この記事はその逆で、回収年数を出しません。理由は単純で、一つの数字の下には少なくとも12個の前提が置かれていて、どれか一つを動かすと答えも動くからです。国も想定回収年数そのものは公表せず、売電価格を決める計算に使った前提の数字を公表しています。どの前提が公的な数字で埋まり、どの前提は自分で決めるしかないのかを、支出・収入・枠組みの順に並べます。国の想定と実績のズレという切り口は元が取れるのかの記事で扱っているので、この記事は「自分の家の計算表を埋める」ことに絞ります。
一つの数字の下に、12個の前提が並んでいる
全体像を先に示します。出典は主に調達価格等算定委員会(経済産業省)の資料で、国が住宅用太陽光の売電価格を決めるときに実際に使っている数字です。
| # | 前提 | 公的な手がかり |
|---|---|---|
| 1 | 初期費用 | 2025年設置(新築)の平均28.9万円/kW・既築30.1万円/kW。国の想定値25.5万円/kWは安い方から約3割の水準 |
| 2 | 補助金 | 国の制度は終了。自治体ごとに有無・金額・条件が違う |
| 3 | 運転維持費 | 国の想定は0.30万円/kW/年 |
| 4 | パワコンの交換 | 交換費が運転維持費に含まれるか資料から確認できず。神奈川県は保証期間の目安を15年程度と記載 |
| 5 | 撤去・廃棄費用 | 住宅用(10kW未満)は積立制度の対象外。公的な費用試算は事業用のみ |
| 6 | 年間発電量 | 国の想定は設備利用率13.7%(実績は14.1%) |
| 7 | 売る割合と使う割合 | 国の想定は余剰売電比率70%(実績は平均64.8%・中央値60.7%) |
| 8 | 自家消費分の単価 | 国の想定は27.31円/kWh |
| 9 | 売電単価(FIT期間中) | 2026年度は24円(〜4年)/8.3円(5〜10年)の二段。調達期間10年 |
| 10 | 売電単価(11年目以降) | 国の想定は10.0円/kWh。ただし10円以上のメニューは条件付きが多いとの注記 |
| 11 | 計算する期間 | FITは10年だが、国の採算計算は20年で置かれている |
| 12 | 税金 | 余剰売電の収入は原則雑所得。給与1か所なら所得20万円超で確定申告 |
以下、それぞれの根拠と、公的な数字では埋まらない部分を見ていきます。
支出側の5つ(1〜5)
初期費用の実勢は、委員会の定期報告データに基づく28.9万円/kW(2025年設置・新築の平均値、中央値29.4万円/kW)です。国の想定値25.5万円/kWをそのまま自分の見積もりに期待すると、実勢との差の分だけ回収は長く出ます。想定値は平均ではなく、安い契約から約3割に入る水準だからです。金額の水準は費用相場の記事に整理しています。
補助金は、あるかないかで初期費用が直接変わります。国の家庭向け制度は終了しており、いま探すのは都道府県・市区町村の制度です。交付決定前に着工しないなどの条件も先に確認が要ります。
使い続ける費用として、国は運転維持費を0.30万円/kW/年と置いています。ここで確認できていないのが4つ目のパワコンです。交換費用がこの運転維持費に含まれるのかどうか、資料からは読み取れませんでした。一方で神奈川県は0円ソーラーのQ&Aでパワーコンディショナーの保証期間を15年程度と記載しており、20年の計算をするなら保証切れ後の故障・交換をどう置くかは自分で決める項目になります(当サイトの整理です)。0円ソーラー(PPA・リース)の仕組みそのものは0円ソーラーの記事で扱っています。
5つ目の撤去・廃棄費用は、試算から抜けやすい項目です。売電収入から廃棄費用を積み立てる国の制度は10kW以上の事業用が対象で、住宅用は対象外。つまり誰も積み立ててくれません。詳しくは撤去・廃棄費用の記事で扱っています。
収入側の5つ(6〜10)
収入は「発電した量のうち、いくら分を売り、いくら分を使ったか」で決まります。発電量について国が置くのは設備利用率13.7%という想定です。容量×8,760時間×13.7%が想定の年間発電量で、実績値は14.1%(2025年1〜8月のシングル発電案件の平均)でした。屋根の向きや日照は家ごとに違うので、ここは見積もりの発電量シミュレーションと突き合わせる項目です。
売る割合と使う割合は、国の想定が売電70%・自家消費30%です。実績は売電が平均64.8%と、想定より使う方に寄っています。昼間に在宅か、電気自動車や蓄電池があるかで大きく動く、公的な統計だけでは埋められない前提です。自家消費した分の価値を、国は27.31円/kWhと置いています。売電の24円より高く、この差が「売るより使う方が得」という設計の根です。
売電単価は一段ではありません。2026年度の住宅用は24円/kWhが最初の4年だけで、5〜10年目は8.3円/kWhです。毎年同じ量を売る仮定なら10年合計は1kWhあたり145.8円で、かつての15円×10年(150.0円)より少し小さく、前半に寄せた設計です(この段落の合計は当サイトの計算です)。24円を10年間伸ばした試算は現行の価格表とずれます。仕組みは売電価格の記事で説明しています。
11年目以降の単価について、委員会の資料はこう述べています。
2026・2027年度の調達期間終了後の売電価格の想定値について、10円/kWh水準以上のメニューは、当該小売電気事業者による電気供給とのセット販売や、 蓄電池併設等の条件付きであることが比較的多いため、状況を注視することが重要。
想定は10.0円/kWhですが、それ以上を狙うなら契約の切り替えや蓄電池の併設という別の判断がついてきます。蓄電池を足すかどうかは蓄電池の選び方と蓄電池だけの補助金の記事が判断材料になります。
枠組みの2つ(11・12)
何年分を計算するのかという枠そのものも前提です。FITの調達期間は10年ですが、国が価格を決めるときの採算計算は20年の運転を想定しています。委員会の原文はこうです。
運転年数について、外壁や屋根の塗り替え等が想定されることから、20年間の運転を想定し、引き続き、昨年度設定した2026年度の運転年数の想定値について据え置くこととしてはどうか。
10年で線を引くか20年で引くかで答えは変わり、20年なら屋根や外壁の工事と重なる可能性まで前提に入ってきます。
最後が税金です。余剰売電の収入は、給与所得者の場合は原則雑所得で、給与1か所なら各種所得の合計が20万円を超えると確定申告が必要になります(住民税にはこの20万円の基準がありません)。詳しくは売電収入と税金の記事で扱っています。
12個の使い方
ここから先は当サイトの整理で、公的な基準ではありません。
- 「◯年で回収」という説明を受けたら、その試算に12個のうちどれが入っているかを確認する。特に4・5・12は抜けていることが多い
- 売電単価が5年目から8.3円/kWhに下がる前提になっているかを見る。24円のまま伸ばした試算は現行の価格表と合わない
- 自家消費率は公的な統計がなく、家庭の昼の過ごし方で決まる。在宅時間と大きな家電の使い方から自分で置く
- 撤去費用と税金は、計算の最後に「出口の費用」「手取りの目減り」として足す
- 前提を固めてから見積もりに進む。順番の整理は見積もりを取る前に決めておく5つのことにまとめている
12個の前提をすべて埋めても、出てくるのは「その前提を置いた場合の答え」です。それでも、公的な数字で埋まる項目と自分で決める項目を分けておけば、業者ごとに違う試算を同じ物差しで比べられます。準備は見積もり前の5つの準備から始めて、見積もりの進め方、費用の全体像、補助金の一覧の順に確かめるのが遠回りに見えて早い道筋です。
「5〜6年で回収」と書かれているのを見たら
見積もりサイトや販売会社の資料では、回収年数を5〜6年としているものがあります。当サイトの計算は5kWで約12年(運転維持費を引くと約13年)です。倍以上ちがいます。
どちらかが嘘というより、12個の前提のどれを動かしたかの差です。差が大きく出るのは次の3つです。
1. 発電した電気を全部「電気代の単価」で数えているか
これが一番効きます。ここから先は当サイトの計算です。
| 数え方 | 4kW・年4,800kWhの場合の年間便益 |
|---|---|
| 全量を自家消費の単価27.31円/kWhで数える | 約131,000円 |
| 自家消費30%=27.31円、残り70%を売電(1〜4年目24円、5〜10年目8.3円)で数える | 約88,000円 |
同じ発電量でも約1.5倍ちがいます。実際には夜も雨の日もあるので発電した全部を家で使うことはできず、余った分は売ることになります。そして売電単価は5年目から8.3円に下がります。全量を電気代の単価で数えるのは、この2つを無視した計算です。
2. 1kWあたりの費用をいくらに置いたか
国が採算計算に使う想定は25.5万円/kWですが、海外メーカーなどで20万円/kW程度になる例もあります。費用が2割安ければ、回収年数もそのまま2割短くなります。4kWなら102万円と80万円の差です。
3. 運転維持費を引いているか
国は年0.30万円/kWの運転維持費を置いています。4kWで年1.2万円です。これを引かない計算のほうが、当然ながら年数は短く出ます。
3つを重ねると
| 置き方 | 費用 | 年間便益 | 回収年数 |
|---|---|---|---|
| 全量を電気代で数える+20万円/kW+維持費なし | 80万円 | 131,000円 | 約6.1年 |
| 売電単価の低下を織り込む+25.5万円/kW+維持費あり | 102万円 | 76,000円 | 約13.4年 |
前提を3つ動かすだけで、6年にも13年にもなります。回収年数という数字そのものに意味はなく、どの前提で計算したかがすべてです。短い年数を見たときに聞くべきことは「本当ですか」ではなく、「売電単価は5年目からいくらで計算していますか」「運転維持費は引いていますか」です。
公的な試算はどのあたりに来るか
東京都がQ&Aで自らの試算を公開しています。
例えば、令和7年10月時点の試算では、4kWの太陽光パネルを設置した場合、初期費用117万円が13.8年(現行の補助金を活用した場合8.4年)程度で回収可能です。
同じ4kWで13.8年です。当サイトの計算は102万円で13.4年でした。ここから先は当サイトの整理です。都は初期費用を当サイトの想定より15万円高く置いており、そこから逆算すると年間便益は約85,000円(当サイトは約76,000円)になります。費用も便益も置き方が違うのに、年数はほぼ同じところに来ます。
補助金を使った場合の都の試算は8.4年です。つまり補助金込みでようやく8年台で、補助金なしで5〜6年になる置き方は、公的な試算からはかなり離れています。都の試算の詳しい内訳はやめたほうがいいケースの記事にあります。
なお、当サイトの計算がどちらか一方の立場に立っているわけではありません。上の表の数字は当サイトが計算したもので、単価の根拠は12個の前提のところに書いたとおりです。実際の見積もりが手元にあるなら、その金額でご自身で計算してください。
この記事の情報について
出典は調達価格等算定委員会(第110回・2026年1月7日)事務局資料PDF、同委員会「令和8年度以降の調達価格等に関する意見」(令和8年2月5日)PDF、資源エネルギー庁「買取価格・期間等」ページ、国税庁の質疑応答事例・タックスアンサー、神奈川県「0円ソーラー」ページです。確認日はいずれも2026年8月8日です。当サイトは太陽光を設置して回収年数を実測した立場ではなく、記載は公表資料の読み取りと、計算と明記した箇所の算数です。
確認していない範囲: 経年劣化(出力低下率)の公的な固定値、パワーコンディショナーの交換費用の公的な相場、国や委員会による住宅用の想定回収年数・利回りの具体値、自家消費率の全国統計は確認できていません。この記事が回収年数の答えを出さないのはそのためです。実際の判断は、複数社の見積もりと最新の公表資料で前提ごとに確認してください。
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