太陽光の話が進むと、手元の紙が増えます。提案書、発電のシミュレーション、見積書、そして最後に契約書。どれも同じ「もらった書類」に見えますが、法律上の扱いは同じではありません。なかには、こちらが請求すれば出さなければならないと条文に書かれているものがあります。
内訳の見積書は、頼むものではなく請求できるもの
建設業法は第20条で見積書の扱いを定めています。第1項は、材料費・労務費・その他の経費の内訳と、工事の工程ごとの作業に必要な日数まで書いた見積書を材料費等記載見積書と名付け、これを作成するよう努めなければならない、としています。作成の側は努力義務です。
ところが第4項になると、書きぶりが変わります。
建設工事の注文者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、当該建設工事に係る材料費等記載見積書の内容を考慮するよう努めるものとし、建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない。
注文者の側は「考慮するよう努める」で止まっているのに、事業者の側は「交付しなければならない」になっています。しかも期限が請負契約が成立するまでと切られています。契約したあとで内訳を出す、という順番は想定されていません(当サイトの整理です)。
内訳のない見積書を渡されたときにできることは、お願いではなく請求です。何を見比べるかは見積書の見方に、何社から取るかは相見積もりの記事に分けてまとめました。
この義務がかかる相手は、思ったより狭い
第20条の主語は「建設業者」です。日常語では工事をする会社全般を指しそうですが、建設業法のなかでは定義語として使われています。
この法律において「建設業者」とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう。
そして第3条第1項にはただし書があり、「政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない」とされています。その金額は建設業法施行令が決めています。
法第三条第一項ただし書の政令で定める軽微な建設工事は、工事一件の請負代金の額が五百万円(当該建設工事が建築一式工事である場合にあつては、千五百万円)に満たない工事又は建築一式工事のうち延べ面積が百五十平方メートルに満たない木造住宅を建設する工事とする。
住宅用の太陽光や蓄電池の工事は、1件あたり500万円に届かないことが少なくありません。その範囲だけを請け負う会社は、許可を受けないまま営業できます。許可番号が見当たらないこと自体は、それだけでは法律違反にならない、という構造です。
ただし、許可を受けていないのに受けているかのように見せることは別に禁じられています。第40条の2は「その許可を受けた建設業者であると明らかに誤認されるおそれのある表示」を禁止しています。許可の有無そのものより、表示と実態のずれが問われる書き方になっています(当サイトの整理です)。
許可を受けた事業者には、第40条により店舗や工事現場に標識を掲げる義務もあります。ホームページの会社概要と、実際の掲示のどちらも確認できる項目です。
| 建設業の許可を受けている | 500万円未満のみを請け負う(許可なし) | |
|---|---|---|
| 営業できるか | できる | できる(法3条1項ただし書) |
| 契約書面の交付(法19条) | 義務 | 義務(主語は「請負契約の当事者」) |
| 内訳見積書の交付(法20条4項) | 請求があれば義務 | 条文上の主語に当たらない |
| 標識の掲示(法40条) | 義務 | 対象外 |
| 誤認される表示(法40条の2) | — | 禁止(「建設業を営む者」が主語) |
契約書の中身は16の号で決まっている
見積書と違い、契約書の側は許可の有無を問いません。第19条第1項の主語は「建設工事の請負契約の当事者」だからです。
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
ここで見落としやすいのが「相互に交付」です。事業者が持ってきた1通に署名して、控えをもらわないまま終わる形は、条文の求めるところではありません。
続く各号に16項目が並びます。すべてが太陽光に強く関わるわけではありませんが、屋根の上の工事という性質から、効いてくる号があります。
| 号 | 第19条第1項の記載事項(要約) | 太陽光で効く理由(当サイトの整理) |
|---|---|---|
| 一・二 | 工事内容/請負代金の額 | 機器の型番と工事の範囲がここで確定する |
| 三 | 工事着手の時期及び工事完成の時期 | 補助金の交付決定より前に着手すると対象外になる制度がある |
| 六 | 設計変更・工事着手の延期・中止の申出があった場合の工期の変更、請負代金の額の変更、損害の負担と算定方法 | 屋根を開けてから構成が変わる場合の増額の扱いがここに書かれる |
| 七 | 天災その他不可抗力による工期の変更・損害の負担と算定方法 | 工事期間中の台風・積雪の扱い |
| 九 | 第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担 | 足場や落下物が隣家に及んだ場合 |
| 十一・十二 | 検査の時期及び方法、引渡しの時期/完成後の代金の支払の時期及び方法 | 引渡しと支払の前後関係が決まる |
| 十三 | 契約不適合を担保すべき責任、またはその履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置(定めをするとき) | 雨漏りが出た場合の責任と、その裏付けの有無 |
| 十四・十五 | 遅延利息・違約金その他の損害金/紛争の解決方法 | 途中でやめる場合の負担が決まる |
第13号は「定めをするときは、その内容」という書き方です。定めないという選択が条文上ありうる、と読めます。保証の考え方は施工保証と製品保証の違いに整理しました。
第2項では、契約後に第1項の事項を変更する場合も、変更の内容を書面にして相互に交付するとされています。第3項により、相手方の承諾を得れば電磁的方法に代えることもできます。メールやシステム上の合意で進めるときは、承諾の有無が前提になります。
訪問を受けて契約するなら、書面はもう一枚ある
営業所以外の場所で申込みを受けたときは、特定商取引法の側からも書面の交付が求められます。第4条第1項は、種類・販売価格・支払の時期と方法・引渡しの時期・申込みの撤回や解除に関する事項などを記載した書面を、直ちに交付しなければならないとしています。
ただし同項にはただし書があり、申込みを受けたその場で契約まで締結した場合は、この申込書面は不要とされています。その代わり第5条により、契約の内容を記載した書面を遅滞なく(ただし書に当たるときは直ちに)交付することになります。書面が1枚か2枚かは、その場で契約したかどうかで変わります。
撤回や解除の期間がいつから数えられるかは、この書面と結びついています。訪問販売で契約してしまった場合の手順は訪問販売とクーリング・オフの記事に、勧誘の見分け方は悪質業者の見分け方にまとめています。個別の判断が必要なときは、消費者ホットライン188(いやや)で最寄りの消費生活センターにつながります。
契約を分けても、金額は足し合わせて見る
「太陽光の工事」と「蓄電池の工事」を別契約にする提案を受けることがあります。金額の線引きについて、施行令には次の定めがあります。
前項の請負代金の額は、同一の建設業を営む者が工事の完成を二以上の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額とする。ただし、正当な理由に基いて契約を分割したときは、この限りでない。
同じ事業者が分割して請け負う場合は合算して判定し、分割に正当な理由があるときだけ例外になる、という順序です。さらに第3項では、注文者が材料を提供する場合、その市場価格(および運送賃)を請負代金の額に加えるとされています。施主支給を挟むと、金額の見え方と条文上の額がずれます。
受け取る順番を決めておく
ここから先は当サイトの整理で、公的な基準ではありません。条文の並びから、書類を受け取る順番として次のように組めます。
- 相手が建設業の許可を受けているかを確認する(許可番号・標識・誤認されうる表示の有無)
- 内訳と工程日数の入った見積書を請求する(許可業者なら第20条第4項の対象)
- 見積書を持ち帰り、他社の内訳と同じ項目で並べる
- 契約書の案を先に見せてもらい、第19条第1項の各号が埋まっているかを見る
- とくに第六号・第十三号の空欄を確認し、埋まっていなければ何を定めるか聞く
- 補助金を使うなら、交付決定と着手時期の前後関係を第三号の日付と突き合わせる
- 署名は2通に行い、控えを受け取る
補助金の側で交付決定の前に着工すると対象外になる制度があります。日付の突き合わせは補助金申請の流れと、住んでいる自治体の制度をまとめた補助金の一覧で確認できます。
書類の前に決めておくこと
書類の確認は、条件が固まっていないと機能しません。同じ条件で見積もりを取るための準備は見積もりを取る前に決めておく5つのことに、依頼の入口は見積もりのページにまとめています。費用の考え方は費用のページ、蓄電池を含めるかどうかは蓄電池の選び方が入口です。
この記事の情報について
当サイトは太陽光や蓄電池の工事を実際に発注した立場ではありません。契約や引渡しを経験した記述は含んでいません。本文は次の法令の条文を読んで整理したものです。
- 建設業法(昭和24年法律第100号)e-Gov法令検索/確認日 2026年8月8日
- 建設業法施行令(昭和31年政令第273号・令和8年4月1日施行)e-Gov法令検索/確認日 2026年8月8日
- 特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)e-Gov法令検索/確認日 2026年8月8日
確認していない範囲は次のとおりです。住宅用太陽光の請負代金が500万円未満に収まる割合の公的統計、建設業の許可を受けていない事業者が住宅用太陽光を施工した件数、第19条第1項第十六号の国土交通省令で定める事項の中身、太陽光の設置工事がどの建設業の種類に当たるかの公的な整理、電気工事業の登録に関する条文。いずれも今回の確認では取得できていないため、本文では扱っていません。また、個別の契約が有効かどうかや、解除できるかどうかの判断は本記事では扱えません。契約に関する具体的な相談は、消費生活センター(消費者ホットライン188)や弁護士等の専門機関に確認してください。
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