「災害のとき、蓄電池は本当に役に立ったのか」。この問いに答えるため、国の報告書を開きました。結論から書くと、家庭用蓄電池が停電中にどう動いたかを記録した公的な資料は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。見つかったのは、太陽光についての一文と、蓄電池を「これから活用する」という方針だけです。
国の資料に「蓄電池がどう動いたか」は書かれていない
まず、北海道胆振東部地震のブラックアウトを検証した報告書を確認しました。2018年10月に公表された検証委員会の中間報告で、本文は77ページあります。
この本文を機械的に検索したところ、「蓄電」という語は1回も出てきません。「自立運転」「自家発」「家庭」も同様に0回でした。「太陽光」は8回登場しますが、いずれも系統側の周波数低下リレーや事故時運転継続の要件に関する記述です。住宅の設備がどう使われたかの話ではありません。
その太陽光の記述の中に、災害の性質を示す一文があります。
②太陽光今回の地震発生時は夜間であったため、太陽光発電はなかったが、当面の再発防止策を検討する際に想定した極めて厳しい断面である再エネ出力最大時(12 時)は太陽光発電が相当量ある。
地震が起きたのは夜間でした。停電が始まった瞬間、太陽光は発電していません。「太陽光があれば停電でも安心」という説明が、この事例ではそのまま当てはまらないことが分かります。太陽光の自立運転で何ができるかは停電時に太陽光は使えるのかの記事に整理しました。
「被災者の生活を支える」と書かれているのは太陽光のほう
もう1つ、翌年に経済産業省がまとめた資料があります。こちらには、復旧の局面についての記述があります。
ブラックアウトからの復旧では、火力のみならず道内各所の水力・地熱・バイオマスといった再エネが、発災直後から安定的な供給力として貢献。老朽火力※も供給力の積み増しに役割を果たした。変動再エネでも、家庭用太陽光の自立運転が被災者の生活を支えるなど、多様な電源がそれぞれの特徴を活かすことの重要性が再認識された。
「家庭用太陽光の自立運転が被災者の生活を支える」。国の資料にこの一文があります。ただし、ここで挙がっているのは太陽光であって蓄電池ではありません。また、この記述に出典やデータは付されていません。何世帯がどれだけ使えたのかは、この資料からは分かりません。
蓄電池は「これから活用する」対象として出てくる
同じ資料の中で、蓄電池が登場するのは1か所だけです。しかも、過去の記録ではなく今後の方策としてです。
山間部など、倒木により設備の復旧が長期化した地域(「復旧難航地域」)は、地理的制約により事前の防災対策が困難なケースもあると考えられ、今後は、こうした地域であらかじめ分散型電源(再エネ、蓄電池、コジェネ、電動車等)を活用することにより、災害時・緊急時のレジリエンスを向上させる方策について検討が必要。
「今後は」「検討が必要」という書き方です。論点整理の側にも、同じ方向の記述があります。
<電源等の分散化> 災害時に自立運転可能な再エネ等分散型電源の地域への導入拡大
政策の方向としては導入拡大が挙げられている。けれども、すでに設置されていた家庭用蓄電池が実際にどう動いたかの記録は、この資料にもありません(編集部の整理です)。
停電がどれくらい続いたかは分かる
蓄電池の稼働記録はなくても、備える側にとって意味のある数字はあります。台風15号による千葉県などの停電について、同じ資料はこう記しています。
本年9月の台風15号による暴風等による停電は、停電戸数のピークは93万戸であったが、電柱の損壊が約2,000本(昨年の台風21号の約1.5倍)に達するなど、特に千葉県内において深刻な被害を受けたため、復旧作業に時間を要し、長期の停電が発生。
ブラックアウトの原因についても記載があります。
昨年の北海道エリアにおけるブラックアウトについては、地震の揺れにより主として、苫東厚真火力発電所1,2,4号の停止に加え、送電線4回線事故(これに伴う道東の複数の水力発電所の停止)等の複合的な事象により、エリアの需給バランスが崩れたことで発生。
| 知りたいこと | 資料に書かれているか |
|---|---|
| 停電の規模と原因 | 書かれている(ピーク93万戸、電柱損壊約2,000本など) |
| 復旧に時間がかかった理由 | 書かれている(被害把握の遅れ、倒木による寸断など) |
| 家庭用太陽光の自立運転の役割 | 一文だけある(出典・データの記載はない) |
| 家庭用蓄電池がどう動いたか | 見つからなかった |
| 何世帯がどれだけ使えたか | 見つからなかった |
記録がないことを、どう受け取るか
ここから先は編集部の整理で、公的な基準ではありません。
記録が見つからないことは、「役に立たなかった」という意味ではありません。国の検証は電力系統の安定と復旧体制が主題で、個々の住宅の設備は対象になっていない、というだけの話です。
一方で、販売の場面で語られる「災害のときに役立ちます」という説明に、公的な裏づけを求めても出てこない、ということでもあります。備えとして蓄電池を検討するなら、他人の体験談ではなく、自分の家で何がどれだけ動くかを数字で確かめるほうが確実です。動く家電と動かない家電は機種の仕様で決まっています(停電時に何が動くかの記事)。
もう1つ、北海道の事例が示したのは時間帯の問題です。停電が夜に始まれば、太陽光はその瞬間から翌朝まで働きません。蓄電池が担うのはまさにその時間ですが、それも残量次第です。備蓄用に残す設定の考え方は運転モードの記事に整理しました。
備えるときに確認する4項目
- 停電が夜に始まった場合を前提に考える。太陽光は翌朝まで発電しません
- 復旧までの日数を想定する。台風15号のように長期の停電が起きた事例が記録されています
- 自分の家で動かしたい家電を決め、その合計消費電力を出す。時間はそこから逆算します
- 停電用に残す量の設定を確認する。初期設定のままだと足りない場合があります
必要な容量の考え方は何kWh必要かの記事、機器の選び方は蓄電池の見積もりの見方にまとめています。
まとめ
- 北海道胆振東部地震の検証委員会 中間報告(77ページ)の本文に「蓄電」の語は0回。家庭用蓄電池の稼働記録は含まれていない
- 同報告には「今回の地震発生時は夜間であったため、太陽光発電はなかった」と記されている
- 経済産業省の資料には「家庭用太陽光の自立運転が被災者の生活を支える」という一文がある。ただし出典やデータの記載はない
- 同じ資料で蓄電池は、復旧難航地域でこれから活用を検討する分散型電源として1か所だけ登場する
- 台風15号の停電は停電戸数のピークが93万戸、電柱の損壊は約2,000本と記録されている
- 記録がないことは役に立たなかったという意味ではない。国の検証の対象が系統と復旧体制だったということ
災害への備えは、体験談ではなく自分の家の数字で決めるほうが確実です。蓄電池の見積もりの場で、停電時に何がどれだけ動くかを書面にしてもらってください。蓄電池の記事の一覧は蓄電池のまとめにあります。
この記事の情報について
以下を2026年9月6日に確認したものです。いずれもPDF本文を直接取得しています。経済産業省「大規模災害時における停電対策について」(令和元年11月27日。内閣官房 国土強靱化の会議資料2-1。ブラックアウトの原因、復旧局面での電源の役割、台風15号の被害、分散型電源に関する今後の方策)、「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会 中間報告(本文)」(2018年10月25日。太陽光に関する記述、地震発生が夜間であったこと)。語の出現回数は、抽出した本文に対する機械的な検索によるものです。編集部が被災地で調査を行った立場ではなく、記載は公表資料の読み取りです。
確認していない範囲: 家庭用蓄電池の災害時の稼働に関する公的な統計・調査は、探した範囲では見つかりませんでした。メーカーや業界団体による民間の調査は、今回は対象にしていません。台風15号・19号における家庭用太陽光・蓄電池の稼働状況、自治体が作成した被災報告のうち住宅の蓄電池に言及したものも確認していません。「家庭用太陽光の自立運転が被災者の生活を支える」という記述の根拠となった調査やデータは、資料に出典が付されていないため確認できていません。今後、新しい調査が公表される可能性があります。
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