「JIS規格に適合しているので安全です」。蓄電池のカタログでよく見る一文です。では、その規格は何をどう試験しているのか。国が実際に蓄電池を過充電させ、短絡させ、ガスバーナーで熱暴走させた記録が公表されています。秒単位の温度まで載っています。
何のための実験だったか
総務省消防庁の検討部会が、令和5年3月の報告書で公表しています。目的はこうです。
蓄電池設備が JIS 等の標準規格に適合することにより、消防法令が求める安全基準を代替することを前提とし、JIS 等の標準規格に適合した蓄電池設備が有する防火安全性について検証を行った。今回、検証を行う標準規格については、第2章で過去の火災リスクを踏まえ、対応すべき措置として評価した以下の3点に係る安全要求事項が定められている2規格(リチウムイオン蓄電池は JIS C 8715-2、ニッケル水素蓄電池は JIS C 63115-2)を対象とした。・過充電防止措置・外部短絡防止措置・内部短絡防止措置又は内部延焼防止措置
「JIS適合を消防法令の代わりにしてよいか」を確かめるための実験だった、ということです。届出の基準がkWhに変わった経緯は消防への届出の記事にまとめました。
試験に使われた製品も公表されています。
電池種類 製品 蓄電池容量 リチウムイオン蓄電池 エリーパワー株式会社 製 POWER iE5 Link ESP ー 30S(リン酸鉄系)蓄電システム外観 蓄電池セル 5.4kWh ニッケル水素蓄電池 FDK 株式会社 製 BBUS-122024-02 蓄電システム外観 蓄電池セル 1.1kWh
リチウムイオンの試験はNITE(製品評価技術基盤機構)とメーカーの試験施設で、令和4年11月に行われました。
試験1: 過充電させる
安全装置を働かせるために、意図的に充電を続けます。
1. 蓄電池ユニットを起動 2. 充電器1(①)により 49.8A(システムの最大充電電流)で充電 3. 最大セル電圧 3.6V を検出し、バッテリーマネジメントシステム回路のリレー(②)がオフになり、電流を遮断する事を確認 4. 試験用充電器2(③)により 10A で充電(A2)5. 最大セル電圧 3.8V 以上を検出し、DC スイッチ(④)がオフになることを確 6. 1時間経過観察
1段目の安全装置が働いたあと、別の充電器でさらに充電を続けています。結果はこうです。
・バッテリーマネジメントシステムにより、セルの電圧が上限に達する前においても充電状態とならず、充電終了となることを確認した。・この結果、BMS 安全装置が確実に働き、過充電に至らずに発火又は破裂がないことを確認した。
BMS(バッテリーマネジメントシステム)が機器に組み込まれていて、それが止める。これが1つめの防護です。
試験2: 端子を短絡させる
1. 単セルの正極端子と負極端子との間に電磁開閉器(MCCB)及び短絡抵抗器(抵抗値は 24.6mΩ)を接続し、短絡 2. 単セルが試験終了の目安温度(最大セル表面温度から上昇温度幅の 80%)に低下するまで経過観察
プラスとマイナスを直接つないでいます。結果です。
短絡により、熱暴走状態となった電池の電気エネルギーが発熱反応により熱エネルギーに変換されたことで、電気エネルギーが消費され電圧が低下している。室温 20 度の開放状態では試験セルの表面温度は 48.3 度まで上昇するものの、それ以上は上昇せず、発火又は破裂しないことを確認した。
表面温度は48.3度まで。ニッケル水素のほうは63.4度で、いずれも発火・破裂には至っていません。
試験3: バーナーで燃やす
いちばん過激なのがこれです。
1. 電池システムの単セル一つをガスバーナーにより熱暴走の状態まで加熱 2. 熱暴走後、ガスバーナーを停止 3. 1時間経過観察 ※ 熱暴走の確認は、セルから内容液が噴出した時点とした。※ 実験施設の設備上、ガスを停止してから火が消えるまで約1分程度余計に加熱している。
見たいのは「1つのセルが熱暴走したとき、隣のセルに燃え移るか」です。報告書には秒単位の記録が載っています。
| 経過 | 状況 | 試験セル上部 | 隣接セル |
|---|---|---|---|
| 0秒 | ガスバーナーに点火 | 21.5℃ | 21.4℃ |
| 4分52秒 | 圧力開放弁が作動、可燃性蒸気ガスに引火 | 133.7℃ | 39.7℃ |
| 4分53秒 | 大きな炎は瞬時に消滅 | 135.2℃ | 43.3℃ |
| 6分02秒 | モジュールケース(樹脂)に着火 | 267.7℃ | 80.0℃ |
| 7分32秒 | その炎も自己消火し、白煙のみ | 412.4℃ | 94.3℃ |
| 8分40秒 | 白煙も消え、以降は見た目の変化なし | 232.2℃ | 85.4℃ |
原文の記述を引きます。
4 分 52 秒② バーナーにより加熱されたセルが熱暴走状態となり内部の圧力が高まったため、セルの圧力開放弁が作動。開放された可燃性蒸気ガスに引火。ガスバーナーへのガスの供給を停止。試験セルの電圧:3.36V 試験セル上部の温度:133.7℃ 隣接セルの電圧:3.35V 隣接セルの温度:39.7℃
7 分 32 秒⑤ モジュールケースに着火した炎も自己消火し、白煙のみ。試験セルの電圧:3.36V 試験セル上部の温度:412.4℃ 隣接セルの電圧:3.35V 隣接セルの温度:94.3℃
試験したセルが412.4℃になっているとき、隣のセルは94.3℃です。結果はこうまとめられています。
対象セルの熱暴走発生後、隣接するセルで熱暴走・発火が発生しないことを確認した。
1つのセルが燃えても、隣に連鎖しない。これが「類焼試験」で確かめたかったことです。ニッケル水素のほうは、バーナーではなくくぎ刺しで熱暴走させています。
1. 電池システムのうち単セル一つをくぎ刺しにより熱暴走状態とする。2. 電池システムを1時間経過観察。※ 熱暴走の確認は、くぎ刺し部分から内容液が漏れ出た時点とした。
結論: JIS適合が何を担保しているか
報告書の検証まとめです。
JIS 規格(JIS C 8715-2 又は JIS C 63115-2)に定められた過充電防止措置、外部短絡防防止置及び内部短絡防止措置又は内部延焼防止措置に適合していることで、消防法令と同等の安全性が確保されていることが確認された。① 過充電防止措置 蓄電池システム又は単電池として、過充電状態にした場合でも火災が発生しないこと ② 外部短絡防止措置 単電池として、正極端子と負極端子との短絡によって火災が発生しないこと ③ 内部短絡防止措置又は内部延焼防止措置 蓄電池システムとして、内部短絡発生時に、外部に類焼しないこと
「JIS適合=安全」ではなく、この3つが確かめられているという意味だ、ということです(引用中の「外部短絡防防止置」は報告書の表記のまま)。
この実験で分かっていないこと
ここから先はこのサイトの整理で、公的な判断ではありません。
| 問い | 実験から言えること |
|---|---|
| 過充電で燃えるか | BMSが働いて燃えなかった(試験した製品では) |
| 端子が短絡したら | 表面温度48.3℃まで。発火・破裂なし |
| 1セルが熱暴走したら隣は | 連鎖しなかった。隣接セルは94.3℃止まり |
| すべての機種で同じか | 分からない。試験は特定の2製品で行われている |
| 経年劣化した電池でも同じか | 分からない。試験の対象になっていない |
| 燃えないという意味か | そうではない。報告書は別の箇所で「潜在的な危険性を有する」と書いている |
実際の火災件数と、そこから読めることは火災の記事にまとめました。
見積もりのときに確認すること
- 入れる機種が JIS C 8715-2 に適合しているか。この規格が試験の基準です
- 10kWh超20kWh以下の区分では、規格適合が消防への届出不要の条件になっています
- 寿命の判断にこの規格を使わないこと。これは安全の規格で、サイクル寿命の規格ではありません(寿命の記事)
- 経年劣化への対応として、保証と点検の条件を確認する(保証の記事)
設置条件は設置場所の記事、蓄電池の記事の一覧は蓄電池のまとめにあります。
まとめ
- 消防庁の検討部会が、JIS適合品の防火安全性を実際に試験している(令和4年11〜12月、NITEとメーカーの試験施設)
- 試験は3つ。過充電・外部短絡・類焼
- 過充電試験では、1段目の安全装置が働いたあと別の充電器でさらに充電している。それでも発火・破裂なし
- 外部短絡試験では表面温度48.3℃まで。発火・破裂なし
- 類焼試験では1セルをガスバーナーで熱暴走させた。隣接セルに連鎖しなかった
- 結論は「JIS規格に適合していることで、消防法令と同等の安全性が確保されている」
- ただし試験は特定の2製品。経年劣化した電池は対象になっていない
「JIS適合」は、この3つの試験を通ったという意味です。カタログで見かけたら、何を確かめた表示なのかを思い出してください。
この記事の情報について
出典は、総務省消防庁「蓄電池設備のリスクに応じた防火安全対策検討部会報告書」(令和5年3月・全51ページ)の第3章「蓄電池設備の火災危険に関する検証」(検証の目的、使用した製品、試験の方法と手順、各試験の結果、類焼試験の経過表、検証まとめ)です。PDF本文を直接取得して確認しました。確認日は2026年9月6日です。掲載した数値は報告書に記載された特定の製品での試験結果であり、他の機種に当てはまるものではありません。当サイトは施工・販売を行っておらず、記載は公表資料の読み取りです。
確認していない範囲: 試験は報告書に記載された2製品(エリーパワー株式会社製・FDK株式会社製)で行われたもので、他メーカー・他機種の試験結果は確認していません。経年劣化した蓄電池での試験は行われていません。JIS C 8715-2 および JIS C 63115-2 の本文(有償規格)も確認していません。この報告書より後に行われた試験、および実際の製品がどの規格に適合しているかの個別の確認方法も確認していません。
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